スタンピ基盤のスワップAU短編です。
レムがテスラの存在を知ったのは、そう昔のことではなかった。ナイとヴァッシュの面倒を偶然見ることになり、インディペンデントという存在について調べる中で、彼女を見つけたのだ。
最初は、科学者として最低限の職業倫理すら持たない人々への怒りがこみ上げた。 そして、この子たちとは違い、犠牲になったテスラへの哀しみ。
けれど、テスラはまだ生きていた。そして、いつか新たな開拓地にたどり着いたとき、また同じことが起きないとは限らなかった。だから、レムは決断を迫られた。
テスラを殺すのか、それとも見逃すのか。意思表示のできない知性体の命を、自らの手で奪うこと――それは決して、容易なことではなかった。けれど、あのときのレムは、それが最善だと信じていたのだ。
ナイとヴァッシュは、この楽園のような船でそんなことがあったなんて知ることもなく、成長していった。
だが長い航海の末、移民船には徐々に不具合が現れ始めた。何人かのクルーが目覚め、幸い問題はすぐ解決されたが、せっかくコールドスリープから覚めた彼らは、少しの自由を楽しみたくなり、数日だけ外で過ごすことにした。
そのせいで――彼らは、ナイとヴァッシュの存在を知ってしまったのだ。
レムはあえて名前以外の情報は伝えなかったが、すでに船内のシステムには「インディペンデント」として登録されていた。クルーたちはすぐに双子が誰なのかを把握し、その中にはテスラの存在を思い出す者もいた。
そして、今度こそ言葉を話し、テスラよりもさらに成長した個体がいるのなら、また研究を続けられるかもしれない――そう考えた彼らは、当時の仲間たちを次々と起こし、双子を引き渡せと詰め寄ってきたのだった。
何が起こるかを予感していたレムは、ナイとヴァッシュを自室に隠し、「そのようなことは、船内における私の権限で絶対に許さない」と断言した。
だが、彼女の説得にまったく耳を貸さず、クルーの一人が力づくで押し通そうとしたその瞬間――部屋の扉が開き、ナイが現れた。そして、目の前に差し出された腕を、何のためらいもなく斬り落としたのだ。
正気に戻ったレムはすぐさま「大丈夫」と言ってナイを抱きしめ、部屋へ戻ろうとした。だが、残った人々はレムとナイを引き止めようとした。
……なら、どうする?
家族を、そして自分自身を守るために。ナイはさらに数人へと刃を向け、血を流させた。その様子に、ようやく事態を飲み込んだ者たちは「化け物だ」と叫びながら逃げ出し、あるいはその場に跪き、命乞いを始めた。
レムはナイを抱きしめて何とか落ち着かせようとしたが、すでにこぼれてしまった水は、元には戻らなかった。「ナイをお願い」とヴァッシュに頼み、床に倒れた人々への応急処置をするため、船のAIを呼び出したその時――
警報音が鳴り響いた。そして、船内が大きく揺れた。
複数の移民船が、一斉に落下していたのだ。先ほど逃げ出した人々のうち数人が、「この化け物を、あるいは別の移民船で生まれるかもしれない化け物の芽を、今のうちに摘むべきだ」と判断し、航行中だった船団を、近くの惑星に意図的に落としたのだった。